すべてのビジネス、すべての商品に「ライフサイクル」があるように、個人起業家の世界、とりわけ「起業女子ブーム」の終焉が与えたインパクトは大きかったのではと考えています。
“新しい時代の生き方” に希望が見えたのも束の間、それらがまるでバブル(泡)のように消え去ろうとしているのですから…。
ですが本来ビジネスとはそういうもの。
こういう時こそ、3ヶ月先の未来すら見えないと言われるIT業界においてイノベーションを起こしてきた、元LINE(株)の森川社長の言葉がとても響くのではと考え、書評レビューを書かせていただきました。
将来どうなるんだろうという不安
2017年の「起業女子ブーム」の終焉は、新時代の働き方としての希望が大きかった分だけインパクトも大きかったと思います。
ですがビジネスとは本来そういうもの。今は世界そのものが技術革新やらなんやらで目まぐるしくビジネス環境が変化しています。
そういう意味では、現在直面している「ブーム終焉後のこれから」という課題は、これから何度も目の前に現れる壁でもあると思います。
特にインターネット業界では、こういった変化が特に多いため、3ヶ月で成功事例がひっくり返されることも少なくないそう。
そういった環境で時代を切り開いてきた森川社長(2017年5月現在:動画メディアのC Channel株式会社代表)はこのように著書の中で書いています。
僕は不安を無理やり消そうとはしません。実際に、明日何が起こるかわからないのですから、不安を消そうとしても消えはしません。
それよりも、「それが現実なんだ」「それが自然なことなんだ」と受け止めることが大切だと思っています。
なぜなら不安だからこそ、自分なりに先を見通す努力をして、何か変化があったときに素早く対応できるように準備をするからです。
むしろ危ないのは、漠然と安心をしてしまっている人たちの方だ、とも書いております。
起業を志した時、会社を辞める決断に心がぐらぐらと揺さぶられた人も多いと思います。ぬるま湯から脱出するのはいつでも怖いもの。
もう一度、過去の成功を捨て、うまくいったあらゆることを捨て、裸一貫で飛び込む勇気が必要なタイミングなのかもしれません。
ライバルではなくユーザーを見る
「SNS起業」や「起業女子」のマーケットは非常に狭いです。
グーグルのキーワードプランナーで検索しても、月間の検索ボリュームが100~1000程度の、小さな市場です。
その中で「差別化されたコンセプト」を求めて、USPだのなんだのと絞り込めば絞り込むほど、もうそこにはお客さんが存在しないぐらい小さなマーケットになってしまっています。
他社との差別化を図り優位に立とうという戦略は、ライバルを見ている行為に等しいのです。
つまり、お客様の方を見ていない、顧客不在の在り方です。
そんな中、森川社長は「ビジネスの本質は音楽に近いのでは?」と語ります。
いい音楽を生み出すためには、「リスナーはどんな音楽を求めているか?」「そのためにはどんな演奏をすればいいか?」という問いに向き合うことがいちばん大切です。
メンバー同士が戦っても意味がありませんし、他のバンドと闘うことにも意味はありません。
一人ひとりが受け持つ楽器の腕を磨き、いいハーモニーを生み出せば、必ずリスナーも喜んでくれる。それが、音楽だと思うのです。
ライバルに勝つこと。それはユーザーにとって、どうでもいいことです。
ユーザーは、ただ「いい音楽」を聞きたいだけなのです。
ビジネスを成功させる究極の3ステップがあると私は考えています。
- 問題を見つける
- 問題構造を理解する
- 本質的な解決策を与える
このようにすれば、理論上はお客様の欲しいものを目の前に用意することができるはずです。
ですが、成功のノウハウという「レシピ」が出回っており、しかも悪いことに、そのレシピは未だに有効だと勘違いしている人たちが多いのが実情です。
具体的には、Facebook集客やアメブロ集客、メルマガ集客やLINE@での集客、という具合です。
キラキラプロモーションで煌びやかな写真をSNSに露出することもそうですし、差別化コンセプトを作りブログとメルマガを構築するやり方もそうです。すべて、ただのレシピです。
そして、そのレシピはもうすでに多くの人の手元にあり、お客様はもうそのレシピに興味がない。それが「ブーム終焉後」の世界です。
だからこそ、私たちがもう一度目を向けるべきは「お客様」であり、そこで起きている「問題」そして「問題構造」です。
ノウハウを追う時代は、もうすでに終わっているのです。
関連記事:なぜ、メンターからノウハウを教わる行為は、もう時代遅れなのか?
目的を「お金」から「価値」に変える
ビジネスの目的は「利益の追求」です。
ですが、その本質は違います。有名なドラッカーの言葉では、「企業の目的は顧客創造である」というものがあります。
そして、「事業は顧客からスタートしなければならない」とも言っています。
この「起業女子ブーム」の中で、大きな売上を作ってきた経験をしていればしているほど、私たちはその「お金」や「プライド」を守ろうとするかもしれません。
ですが当然、それはビジネスの本質であるはずがありません。
森川社長は著書の中でこのように伝えています。
会社は何のためにあるか?
僕の答えはシンプルです。
世の中に価値を提供するためにある。これがすべてです。
もちろん、利益も大切です。利益が出なければ会社を存続させることはできません。
しかし、利益が出るか出ないかは結果論にすぎない。価値を提供すれば、その結果として自然と利益はついてくるのです。
むしろ、利益をビジネスの目的にすると危ない。どの企業でも儲けを優先し始めると、ユーザーはその変化に必ず気づきます。「あ、何かスイッチが入ったな」と。
儲けを優先していることがわかったら、ユーザーは一気に離れ始めます。インターネット業界でも、そうして衰退していった企業がたくさんあります。
私たちも元々、守るべきものを手放して、今の世界に飛び込んだ、という経緯を持っているはずです。起業とは本来、少なからずとも痛みを伴うものだからです。
ですが、妙なプライドやお金、実績などが生まれたせいで「守り」に入ってしまうことがあります。
まるで起業へのチャレンジよりも、会社に居残って安定を守った方がいいのではと葛藤した、あの日々のように。
私たちはもう一度、目の前の変化に飛び込む時が来ています。
ちょっと自己啓発のように聞こえてしまうかもしれませんが、それこそがビジネスだと思うのです。
自分を追い込んでいますか?
森川社長の転職歴は非常に刺激的です。
日本テレビに就職しながらも、動物園のオリの中で飼育員の言うことを聞いていればOKというような働き方に疑問を感じていたそうです。
今は良いけれど、いざ動物園からサバンナという外の世界に出た時に、自分でエサを獲得できるのかどうかが怖い。そういった想いからソニーに転職をします。
この時、日本テレビ時代に比べ年収が半減したそうです。
その中でベンチャーを立ち上げ、年商数十億のビジネスに育てたものの、その瞬間に退職間際の人たちを大量に送り込まれ、そのささやか成功を再び捨てることに。
次の転職の時はすでに36歳。再びの転職先は、ハンゲーム・ジャパン株式会社。この時もまた、年収が半減したそうです。
こういったキャリアの積み方をしてきた森川社長。
その信念は、我々個人起業家も学ぶべきところがたくさんあるものでした。
「やりたい仕事」を求めて努力を繰り返してきたし、自分の価値を高められると感じたときには、「お金」や「名誉」も捨てて転職してきました。
人間は弱い生き物です。「お金」や「名誉」を与えられるとそれに満足して、自らストレッチして成長するのは難しい。
そして、自分の市場価値より高い「お金」と「名誉」にしがみつくようになる。だからこそ、あえて僕は、厳しい場所に身を置くようにしてきました。
この言葉を聞いて私が思ったことがあります。
それは、まさに今この「起業女子ブームの終焉」はチャンスなのではないだろうか、ということです。
あえて厳しい場所に身を置くまでもなく、すでに厳しい環境になってくれた、というわけです。
森川社長は「ストレッチ」という言葉を使っていますが、これと同じことは会社員生活の中で何度も経験してきている人も多いのではと思います。
つまり、上司から無茶振りをされて、だけどそれをキッカケに自分の伸びしろが増え、成長できる、という現象です。
我々、個人起業家またはフリーランスという働き方は、意識して自分の成長の伸びしろを増やしていかないと、いつまでも「できること」の枠の中で収まりがちです。
失敗をリカバリーしてくれる会社の先輩も上司もいないのですから、ある意味で当然といえば当然です。
お客様やクライアントを裏切るわけにはいきませんから。
こちらの関連記事も面白いので読んでみてください。メディア運営では知らない人はいないと言われる、シオタンこと、塩谷舞さんの過去ブログです。
注目記事:成功を保証できる仕事ばかりやってると、成長しなくなる
「差別化」を狙わない真の理由
差別化を狙うことは、本質的ではない。
森川社長の言葉はいつもグサっと響きます。
ユーザーが求めているのは「違い」ではなく「価値」です。
自分にとって価値がなければ、どんなに際立った違いがあっても振り向いてはくれないのです。
すごい人は、空気を読みません。
大企業で、上司のサインを無視して、自分の判断でシュートを放てばどうなるでしょうか?
ゴールを外したときはもちろんのこと、たとえゴールを決めても批判されるでしょう。
それでも彼らはプレーの仕方を変えようとはしません。なぜなら、恐れているからです。
何を怖れているか?
ユーザーです。
ユーザーが求めているものから、ほんの「1ミリ」ズレただけでも、つくり上げたプロダクトは相手にしてもらえない。
だから彼らは、絶対に妥協しようとはしません。
森川社長の信念は、本当にシンプルです。
ユーザー(お客様)にとっての価値を追求する。それ以外のものはすべて捨てる。
その代わり、価値を作り込むためには、一切の妥協をしない。
ビジネスの本質を考えれば考えるほど、自分たちのビジネスのビジョンを考えることや、ライバルの動向を気にすることが、いかに本質から外れているのかが見えてくるようです。
世の中に価値を提供する。
その一心でビジネスをしていることが、ビシビシと伝わってきます。
私たちが不安を感じるとき、もしかするとこの「本質」がどこか抜け落ちてしまっているのかもしれません。
「本質」とは何かを追及すればするほど、Facebook集客がどうこう、アメブロがどうのこうのが、いかに小さなことなのかが分かるのではないかと思います。
価値をお客様に届けるためにリサーチを徹底し、価値を作り込み、ニーズから1ミリすらズレないよう仮説の精度を高め、そして必要な戦略を立てていく。
この、非常にシンプルな考えに基づいて思考することが、ブームの終焉、時代の転換期にやるべきことなのかもしれません。
さいごに
森川社長の著書「シンプルに考える」(発行:ダイヤモンド社)の中には、ここでは紹介しきれないほどの、非常に本質的な考え方が随所に散りばめられています。
「起業女子」というブームよりも、はるかに早い市場サイクルの中で活躍するインターネット業界の最先端だからこそ、私たち個人起業家は、まだまだ甘いということが伝わってくるような、そんな気にさせてくれる本でした。
しっかりと1冊すべてを読みたい方のために、こちらにリンクをご紹介しますね。
「いらないものは全部捨て、本質だけを追求する」。
この本には、数々の「いらない」が満載です。
- 「偉い人」はいらない
- 「計画」はいらない
- 「仕組み」では成功できない
- 「ルール」はいらない
- 「モチベーション」は上げない
- 「成功」は捨て続ける
- 「お金」を中心に考えない
- 「不安」を楽しむ
- 「熱」こそが成功の条件である
まだまだあります。本当にたくさんの「いらない」で埋め尽くされています。
そんな森川社長が、会社にとっていちばん大切なことは何か?という質問が冒頭にあります。
この言葉をもって、この書評(レビュー)を終えたいと思います。
会社にとっていちばん大切なことは何か?
僕の答えはシンプルです。
ヒット商品を作り続けること。これしかありません。
ヒット商品をつくり続ける会社が成長し、ヒット商品をつくることができなかった会社が滅びる。
古今東西、ビジネスを支配しているのは、このシンプルな法則です。
だから、ビジネスの本質は「ユーザーが本当に求めているものを提供し続けること」。それ以外にはないのです。
そのためにはどうすればいいか? これもシンプルです。
ユーザーのニーズに応える情熱と能力をもつ社員だけを集める。
そして、彼らが、何ものにも縛られることなく、その能力を最大限に発揮できる環境をつくり出す。これ以外にありません。
そのために必要なことだけをやり、不要なことはすべて捨てる。
僕がやってきたことは、これに尽きます。
シンプルに考える──。
これが、僕の信条です。